コスパのいい仕事

フリーランスの仕事を廃業して以来、ずっと最低賃金で働くパートタイマーを続けている私であるが一年に一回程度の頻度で、思い出したように昔の知り合いから仕事の依頼が来る。
これがちょっとした小遣い稼ぎになるので、結構嬉しい。

今年もつい先ごろ、
とある英会話スクールのパンフレットを
作成する仕事を頂いた。
A4サイズ8ページの体裁で、ギャラは8万円。

私はコピーライターなので、
表紙と表4(裏面のこと)は関係なく、
実質6ページ分の文章を書けばいいだけ。
ページの単価は13333円ということになる。
これは今の時代からすれば、そう悪くないギャラだ。

私がフリーランスでやっていた頃は
大体2万円くらいが相場であったように思う。


時代が不景気になる前は、
フリーランスのコピーライターほど
コスパの良い職業はなかった。

何しろ元手も経費も要らない。
パソコンひとつあればできる。
30年ほど前となるとパソコンも無かったから、
原稿用紙と鉛筆だけでオッケー。

ちなみに私史上最もコスパが良かった案件は、
若い女性向けに新たに誕生した保険のポスター。
確か10文字程度のキャッチフレーズを書いて、
15万円のギャラを頂いた。
ひと文字1万5千円!

いくらバブルとはいえ、今考えても
ちょっと常識外れのギャラだと思う。

しかもこれは大阪での話で、
同じ条件で東京で仕事したら
軽く3倍は貰えている。

広告に関して言えば、
東京と大阪では雲泥の差。
惜しげも無く広告費を出してくれる
一流クライアントも、
それに応える一流クリエーターも
みんな東京に集中していた。

大阪なんかはしょせん単なる地方都市で、
そこでくすぶってるクリエーターも二流である。

まあ、そんなバブルの頃。
私、コピーライター時代の林真理子さんをお見かけしている。


その頃、大阪のとある百貨店の仕事をしていたのだが、ある時
プライベートブランドの婦人服のポスターを作成することになり、担当者がこう仰った。

「このブランドは当社も力を注いでいる。そこでコピーは、是非とも東京のメジャーなコピーライターにお願いしたい」と。

お前らレベルの二流じゃなく一流のライターに、ということで林真理子先生にダメ元で依頼したところ快く受けてくださったらしい。

林真理子さんといえば、『ルンルンを買ってお家に帰ろう』というエッセイが爆発的にヒットし、一躍、時代の寵児となられ、テレビにもバンバン出られていた。

さぞやイケイケの怖いお姉さまが来られるのだろうと思っていたら、とても腰の低い感じのいい方であった。

「コピーを書くにあたって、自分で着てみないとわからないので、一着買わせて頂きます」と、洋服もお買い上げになったそうだ。

そんな一流コピーライターがいったいどのようなコピーを書かれるのであろうかと、
私たち二流は嫉妬心半分、好奇心半分でポスターの刷り上がりを待っていたのであるが、
残念ながらどんなコピーだったのか記憶に留まっていない。

「ふ〜〜〜ん」と言った反応だったと思う。

が、

ギャラを聞いた時は
「ひえーーーー!!」となった。


東京と地方、
一流と二流の差をまざまざと見せつけられた瞬間であった。

昔々の、バブルの頃のお話しである。


バブルが弾けてからは階段を2段飛ばしで降りるようにギャラが下がり、もうコピーライターはコスパがいいとは言えなくなった(東京は知らんけど)が、何か今の方が「真っ当な仕事」という感じがする。


そうそう、今のパートは事務と接客が半々だが、恐ろしく暇な職場で、大半は好きなことをして時間を潰している。ほぼ放置状態だから気分も楽。
真剣に働いている実働時間を考えると、
最低賃金ながらめちゃくちゃコスパが良いと言えなくもない。

ルンルンを買っておうちに帰ろう (角川文庫 (6272))

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